楽曲紹介
ボカロPのMIMIが2026年4月に発表した新曲「ぴょん」は、月の裏側でお餅をつくウサギの伝説をモチーフにした、幻想的でかわいらしいボカロ曲である。MIMIは2016年にデビューし、『ハナタバ』『くうになる』などでニコニコ動画伝説入り(100万再生)を達成した実力派ボカロPで、温かなピアノの音色と寄り添うような歌詞が特徴的である。本作もその持ち味を活かしつつ、軽やかで跳ねるようなメロディーが印象的な、春の訪れを告げる一曲となっている。

歌詞
[Verse 1]
月の裏側 お餅ついてる
まだ眠いままの うさぎは待っている
夜にぴょんぴょんの時が やってくるのを
[Verse 2]
夢の向こうで 星が昇って
まだ淡いままの 心が跳ねたら
今日のぴょんぴょんの舞を
覚えていてね
[Chorus 1]
ぽつん落ちる 言葉みたい
そして今踊るからね
せーのっ
ぴょんぴょんぴょんぴょぴょん
私うさぎ
ふわふわふわふわ 跳ねる
君の垂れた耳に届け
月の裏側で泣いてても
ほら
ぴょんぴょんぴょんぴょぴょん 君もうさぎ
とろとろとろける 柔らかハートに
涙の透明を 撫でるハーモニー
ファンタジーみたい
[Verse 3]
くるまるくるまる 布団だって大好き
外では生きてく それはちょっと怖くて
くるまる くるまる ふわふわって大好き
ぽわぽわぽわぽわ まだ眠いままで
できれば最後まで 嗚呼人参枕に埋もれたい
せーのっ
[Chorus 2]
ぴょんぴょんぴょんぴょぴょん
私うさぎ
ふわふわふわふわ跳ねる
君の寂しそうな声が
手を握ったらもう大丈夫だよ
ぴょんぴょんぴょんぴょぴょん君もうさぎ
まだまだまだまだ此処で踊ろう
ホントの気持ちは柔らかいまま 待てるから
[Bridge]
夢の続きだけ
ぬくぬくな話で進ませて
どんどん
夜の続きだけ 優しい言葉で満たしてね
[Chorus 3]
ぴょんぴょんぴょんぴょぴょん
私うさぎ
ふわふわふわふわ 跳ねる
君の垂れた耳に届け
月の裏側で泣いてても
ほら
ぴょんぴょんぴょんぴょぴょん 君もうさぎ
とろとろとろける 柔らかハートに
涙の透明を 撫でるハーモニー
ファンタジーみたい
歌詞意味解釈
【Verse 1〜2】月の裏側のウサギと「ぴょんぴょん」の時
「月の裏側 お餅ついてる」は、日本の伝説「月の兎」に由来する表現である。月に住むウサギがお餅をついているという童話的な世界観を、楽曲の舞台設定として用いている。「まだ眠いままの うさぎは待っている」は、眠気に包まれながらも、夜の訪れを待つウサギの姿を描いているが、これは「まだ準備ができていない自分」という、誰もが抱く不安や未熟さを象徴しているとも読める。
「夜にぴょんぴょんの時が やってくるのを」は、夜が訪れ、自分の時間が始まることを待つ様子を表している。「ぴょんぴょん」という擬音は、ウサギの跳ねる動きだけでなく、心が弾む、軽やかな時の流れをも表現している。2番の「夢の向こうで 星が昇って」は、現実と夢の境界が曖昧な幻想的な空間を描き、「まだ淡いままの 心が跳ねたら」は、まだ確固たるものではないけれど、確かに動き出した感情を表現している。
【Chorus 1】「私うさぎ」と「君もうさぎ」の対話
サビの「ぽつん落ちる 言葉みたい」は、ぽつりぽつりと零れる言葉のように、感情が自然に溢れ出す様子を表している。「せーのっ」という掛け声は、一緒に跳ね始める合図であり、孤独だった存在が共に動き出す瞬間のきっかけを表している。
「私うさぎ/ふわふわふわふわ 跳ねる」は、自分自身をウサギに例え、軽やかに生きる姿勢を歌っている。「君の垂れた耳に届け」は、落ち込んで耳を垂らしている相手に、自分の歌声=想いを届けようとする優しさが込められている。「月の裏側で泣いてても/ほら」は、誰にも見えない場所で泣いていても、自分がそばにいることを示す、寄り添うような言葉である。
「君もうさぎ/とろとろとろける 柔らかハートに」は、相手もまたウサギであり、同じように繊細で柔らかな心の持ち主であることを肯定している。「涙の透明を 撫でるハーモニー」は、涙の透明さ=純粋な感情を、音楽=ハーモニーで優しく撫でる、癒しのイメージを描いている。そして「ファンタジーみたい」は、現実にはありえないような、夢の中のような温かい世界を表現している。
【Verse 3】「くるまる」という安らぎと外への恐怖
「くるまるくるまる 布団だって大好き」は、布団にくるまる安心感を、子供のような素直さで歌っている。「外では生きてく それはちょっと怖くて」は、自分の殻の外に出て社会で生きることの怖さを素直に口にしている。多くの人が感じる「対人恐怖」や「社会不安」を、ウサギという小さな存在の視点から描いている。
「ぽわぽわぽわぽわ まだ眠いままで」は、眠気とぼんやりとした状態を楽しむ、だらだらとした時間の愛おしさを表現している。「できれば最後まで 嗚呼人参枕に埋もれたい」は、ウサギが好む人参を枕にして、ずっとこのままでいたいという願望を、少し駄々をこねるような可愛らしさで歌っている。これは「現実から逃げたい」という願望を、童話的な表現で柔らかく包んでいる。
【Chorus 2】寂しさを分かち合う絆
2番目のサビで「君の寂しそうな声が/手を握ったらもう大丈夫だよ」という、直接的な寄り添いの言葉が登場する。これは1番目のサビの「届け」から一歩進み、実際に手を握り、物理的な繋がりを持つことで安心を与える場面である。「まだまだまだまだ此処で踊ろう」は、時間をかけて、一緒にいることを約束する言葉である。
「ホントの気持ちは柔らかいまま 待てるから」は、本当の気持ちは傷つけないように柔らかく保ち、相手が準備できるまで待つという、深い愛情と忍耐を表現している。これは「焦らない」「無理に急がない」という、相手を尊重する姿勢が込められている。
【Bridge】夢と夜の続きを紡ぐ
ブリッジの「夢の続きだけ/ぬくぬくな話で進ませて」は、現実の厳しさではなく、夢の中の温かい話だけで時間を進めたいという願望を表している。「どんどん」は、そうした温かい時間がどんどんと積み重なっていくことを願う気持ちである。
「夜の続きだけ 優しい言葉で満たしてね」は、夜=暗く孤独な時間であっても、優しい言葉で満たされていれば怖くないというメッセージである。ここでは「言葉」の力、コミュニケーションの大切さが強調されている。
【Chorus 3】繰り返される「ぴょん」の輪
最後のサビは1番目と同じ歌詞を繰り返すが、2番目のサビで描かれた絆の物語を経て、同じ言葉がより深い意味を持って響く。「月の裏側で泣いてても/ほら」という言葉は、もはや一人で泣いているのではなく、「私」がそばにいて「君」を見ている、二人の物語になっている。
まとめ
「ぴょん」は、月の裏側でお餅をつくウサギという童話的な世界観を舞台に、繊細で不安定な心を持つ「私」と「君」の交流を描いた楽曲である。MIMI特有の温かなピアノサウンドが、ウサギのようにふわふわと跳ねるメロディーと融合し、聴く者の心を優しく包み込む。
歌詞の核心は「私うさぎ」と「君もうさぎ」という対等な存在の出会いにある。どちらも繊細で、どちらも傷つきやすく、どちらも布団にくるまりたい気持ちを持っている。そんな二人が「せーのっ」という合図で一緒に跳ね始め、手を握り合い、優しい言葉で満たし合う——その過程が、現代の生きづらさを抱える人々にとって、大きな慰めとなる。
「ホントの気持ちは柔らかいまま 待てるから」というラインは、相手を急かさず、自分のペースで歩むことを認めてくれる、深い優しさが込められている。月の裏側で泣いていても、誰かが「ほら」と手を差し伸べてくれる。そんな「ファンタジーみたい」な、けれど現実に起こりうる温かい奇跡を、MIMIは音楽で紡いでいる。