楽曲紹介
「あさのうた」は、ボカロP・大漠波新のVOCALOIDオリジナル楽曲である。作詞・作曲を大漠波新が一手に手がけ、初音ミクのボーカルで制作された楽曲として、2026年7月10日にYouTubeで公開された。なお、この曲は大漠波新の1stシングル「スター」に収録されており、2026年5月30日・31日に幕張メッセで開催された「プロジェクトセカイ クリエイターズフェスタ2026」のクリエイターズマーケット(B-48)にて頒布された。同シングルには「スター」「あさのうた」「星と夢」の3曲が収録されている。

大漠波新は2021年1月にボカロPとして活動を開始し、「あいのうた」「のだ」などのヒット曲で知られる作家で、独特なワードセンスと等身大のリリックが特徴的だ。2023年8月に投稿された「あいのうた」はボカコレ2023夏のTOP10入りを果たし、殿堂曲(10万再生)を達成。その後「のだ」も大きな反響を呼び、原作・監修として小説『のだ』も2025年1月にKADOKAWAのMF文庫Jから刊行された。
「あさのうた」は、そんな大漠波新の作風を色濃く反映した作品である。朝という時間帯をテーマに、生きることの苦楽を真正面から描きながらも、最終的には前向きなメッセージを届ける。楽曲の冒頭で「楽しいことがしたいなら楽しい顔で行きましょう」と語りかけるように、聴く者に寄り添う等身大の言葉が並ぶ。これは単なる励ましの歌ではなく、生きることの難しさを知り尽くした上で、それでも前に進もうとする意志の歌である。
歌詞
作詞:大漠波新 作曲:大漠波新
楽しいことがしたいなら
楽しい顔で行きましょう
でも
楽になれるよう生きるってのは
楽にはいかないかも♪
誰かの笑顔が見れるなら
私は引き攣ってもいい
「嫌だなぁ…」
だってできることならみんなして
笑っていきたいでしょう
昼下がり
不確かな
愛を見る
何をしてても暗くならない
こんな日常に手を貸して
あなたも夢を見て
取りこぼすほど溢れていって
ふとした刹那に不安定で
息をしてる間に通り過ぎる
この1DAY
崩れる時もあるんだけど大丈夫
「この世界に生きてる!」
…って気がしてちょっとだけ安心♪
落ち込むようなことがあって
心配されても「知らない」って
塞ぎ込むだけを繰り返すなんて
つまらないから
"はにかむ"という手札を切って
走り出せ!
その時、手を強く引くから!
あさのうた
歌う風に乗って
吹き飛ばされても
ジッと耐えて
向かい風を面白いと思うような人生だ
大人のふりした
昨日を全部振り払え!
新しい君を知りに行く
懐かしい日々も忘れず
「私、今日も生きてる!」
…ってひとこと言ってみると安心♪
歌詞意味解釈
楽しいことがしたいなら/楽しい顔で行きましょう
「楽しいことをしたい」と思うなら、まず「楽しい顔」でいくべきだという、一見当たり前のようでいて深いメッセージ。心の状態が行動や結果に影響を与えることを示唆している。これは単なるポジティブシンキングではなく、自分の内面を整えることの大切さを語っている。
でも/楽になれるよう生きるってのは/楽にはいかないかも♪
「楽に生きる」ことと「楽しく生きる」ことは別物だと指摘する。楽になろうと努力する過程自体が、案外楽ではないという皮肉。♪の記号が付くことで、そんな苦労も含めて人生の一部として受け入れる余裕が感じられる。
誰かの笑顔が見れるなら/私は引き攣ってもいい
「引き攣る」は、無理して笑顔を作る様子。誰かのために自分を犠牲にするのではなく、誰かの笑顔を見たいという純粋な願いが、自分の無理を超えていく原動力になることを描いている。自己犠牲ではなく、他者への愛情から生まれる強さである。
「嫌だなぁ…」/だってできることならみんなして/笑っていきたいでしょう
「嫌だなぁ」と素直な弱音を吐いた上で、それでも「みんなで笑っていたい」という願いが勝る。弱さを認めた上で前を向く、等身大の感情の動きが美しい。
昼下がり/不確かな/愛を見る
「昼下がり」は午後の時間帯で、一日の中でも少し気が緩む時間。そんな時間に「不確かな愛」を見る。愛とは確固たるものではなく、曖昧で不安定なものかもしれない。だがそれを見つめ直すこと自体が、生きることの意味に繋がっている。
何をしてても暗くならない/こんな日常に手を貸して/あなたも夢を見て
「何をしてても暗くならない」日常の中で、手を差し伸べ合い、互いに夢を見させ合う。孤独ではなく、誰かと共に生きることの温かさが表現されている。
取りこぼすほど溢れていって/ふとした刹那に不安定で
「取りこぼすほど溢れていって」は、情報や出来事が多すぎて追いつかない現代社会の描写。そんな中で「ふとした刹那に不安定」になる。予期せぬ瞬間に心が揺らぐ、誰もが経験する普遍的な感情である。
息をしてる間に通り過ぎる/この1DAY
「息をしてる間に」という表現は、生きていることの当たり前さを強調しつつも、その当たり前の中で一日が過ぎていく速さを実感させる。1日の短さと、それを大切に生きたいという願いが込められている。
崩れる時もあるんだけど大丈夫/「この世界に生きてる!」/…って気がしてちょっとだけ安心♪
「崩れる時もある」ことを認めた上で「大丈夫」と言い聞かせる。そして「この世界に生きてる」という実感が、ほんの少しの安心をもたらす。存在そのものが、生きる理由になる瞬間である。
落ち込むようなことがあって/心配されても「知らない」って/塞ぎ込むだけを繰り返すなんて/つまらないから
落ち込んだ時、心配されても「知らない」と素っ気なく振る舞い、自分を閉じこもることの「つまらなさ」を指摘する。自分を守るために築いた殻が、実は自分を閉じ込めていることに気づく瞬間である。
"はにかむ"という手札を切って/走り出せ!/その時、手を強く引くから!
「はにかむ」は照れくささや恥ずかしさを意味する。それを「手札」として切る、つまり照れくささを恐れずに自分をさらけ出すことを選ぶ。そして「手を強く引く」という誰かの存在が、そんな勇気を後押ししてくれる。他者との繋がりが、前に進む力になることを描いている。
あさのうた/歌う風に乗って/吹き飛ばされても/ジッと耐えて
「あさのうた」は朝の歌、つまり新しい始まりの歌。風に乗って歌い、吹き飛ばされそうになっても「ジッと耐える」。受け身ではなく、能動的に風に乗りながらも、根を張って耐える強さである。
向かい風を面白いと思うような人生だ
「向かい風」を苦難ではなく「面白い」と思える人生。これは単なる楽観主義ではなく、困難を受け入れ、それと向き合うことで成長するという意志の表現である。大漠波新の作風の核心とも言えるメッセージである。
大人のふりした/昨日を全部振り払え!
「大人のふり」は、世間の期待に応えようとしたり、自分を偽ったりする生き方。そんな「昨日」を振り払い、ありのままの自分でいることを選ぶ。これは子供への回帰ではなく、本当の自分を取り戻す行為である。
新しい君を知りに行く/懐かしい日々も忘れず
「新しい君」を知りに行く旅路の中で、「懐かしい日々も忘れず」。過去を否定するのではなく、過去を抱えた上で新しい自分を探す。成長とは過去を切り捨てることではなく、過去と共に歩むことである。
「私、今日も生きてる!」/…ってひとこと言ってみると安心♪
「この世界に生きてる!」と同じく、存在の実感を言葉にすることで安心を得る。これは自己肯定の言葉であり、生きていることへの感謝の言葉である。♪の記号が、そんな言葉を口にする時の軽やかさと、それでも確かな重みを表現している。
まとめ
「あさのうた」は、朝という新しい始まりの時間を舞台に、生きることの苦しみと喜びを等身大で描いた楽曲である。大漠波新の特徴的な言葉選びと、初音ミクの声が織りなす世界観が、聴く者の心に深く響く。
「楽に生きる」ことと「楽しく生きる」ことの違いを問い、誰かの笑顔のために自分を奮い立たせる強さ、そして「向かい風を面白いと思う」ような人生観を提示する。特に「大人のふりした昨日を全部振り払え」というフレーズは、社会の期待に縛られず、本当の自分を生きることの大切さを訴えている。
「あさのうた」は単なる朝の歌ではなく、毎日が新しい始まりであり、毎日が自分を取り戻す機会であることを教えてくれる。朝の光に乗って、風に吹かれながらも、ジッと耐えて前に進む。そんな生き方の讃歌として、多くの聴く者の心に寄り添い続ける一曲である。